穂高健一氏『幕末歴史小説を語る』 葛飾鎌倉図書館講演会(抜粋)
2015年2月1日の午後2時から2時間にわたり、『幕末歴史小説を語る』の講演が行われました。 私も道に迷いながら、定刻ぎりぎりに何とか到着。 80席が開演前には既に埋まり、大盛況でした。 1番前を案内されましたが、さすがに先生の目前では気恥ずかしいので真ん中の席で拝見しました。 「私に出来る事であれば、お手伝いするので言いつけてください」と豪語したのに、この有り様です。 PPの皆様、新参者のくせに申し訳ありませんでした。以後、時間に余裕も持ってうかがいます。 では、気を取り直して、講演会の一部を転載させていただきます。
德川政権には三つの大きな節目がある。 ① 天明の大飢饉による、大坂、江戸の打ち壊しで、無政府状態になった。 德川政権は天皇から政治を委託されている、という皇国思想が生まれた。 歴史作家でも、尊王攘夷はひとつものだと考えている。これは歴史認識が間違っている。 尊皇とは天皇を敬うことだ。攘夷は外国排除の戦争思想だ。 これを合体させると、天皇が戦争好きに思わせる、危険な思想なのだ。 ② 鎖国から開国へと、世の中が変わり、ここから文明が大きく飛躍した。 『安政維新』が正しい。 ③ 幕末の経済危機「ええじゃないか」運動が京・大坂から広がり、15代将軍慶喜は外交に強いが内政に弱く、コントロールできなくなり、政権を天皇に戻した。 大政奉還から、明治新政府ができた。 京都に明治新政府ができた。しかし、薩長の下級武士が軍事クーデターを起こした。 鳥羽伏見の戦い、戊辰戦争、そして天皇を遷都もなく東京に移し、明治軍事政権を作った。 京都の明治新政府と、東京の明治軍事政権は別物である。 かれらは広島・長崎の原爆投下まで77年間、10年に一度は海外と戦争をする国家にした軍人支配だった。 江戸時代260年余りは海外と戦争をしなかった。その後の77年間は、異常な軍事国家である。 軍事国家を見せかけの正当化するために、偽りの表記をしている。最たるものは「明治維新」という言葉である。 維新とは新しく世が変わることである。 250年からの鎖国から、老中首座・阿部正弘は開国への道を選んだ。 維新はここから始まる。留学生を送り出す。横須賀に製鉄所、長崎に大型船建造の造船所ができる。 大量の蒸気船を発注する。庶民の畳の生活には、机やテーブルが入ってくる。 これこそが文明開化であり、世の中が新しくなった、「維新」である。15年間つづいた。 明治時代はその後である。単純に考えても、「明治維新」でなく、「安政維新」が正しい。 明治政府はそれを15年後から引き継いだだけである。 かれらの思想はもともと外国排除の攘夷だった。 「維新」とか「文明開化」のスタートを使うとは、まるきし虚偽である。 それで軍事思想をオブラートしているのだ。 明治維新。こんな言葉こそは欺瞞の造語だ。正確には、「明治軍事政府の樹立」なのだ。 大政奉還で平和裏に京都に明治新政府ができた。 ところが、薩長の下級藩士たちが、鳥羽伏見の戦いを機に軍事クーデターが起こし、遷都もなく、明治天皇を東京に移したのだ。 戦後の東南アジアでもよく見られた、民主政権ができると、すぐさま軍事クーデターが起きる。それとまったく同じ構図である。 日本は天皇制である。 古代から、天皇がお住まいになる京都・皇居に兵を挙げ、そして天皇に承認してもらえば征夷大将軍、あるいは国家の頂点に立つと考えてきた。 平家、源氏、足利、織田信長、今川、上杉謙信、武田信玄、誰もが天皇のいる京都へと兵を挙げた。 織田信長の天下統一も、天皇が認めたからで、蝦夷から薩摩まで、武力制圧したわけではない。 簡略に言えば、「天皇を掌中にした方が勝利者である」という認識だ。それが天下統一だ。 戊辰戦争後、明治天皇が東京移されると、天皇のいない京都の明治新政府はもぬけの空になった。 それは脱皮したセミの殻(から)と同じだった。 薩長の下級藩士は、天皇を東京に移したあと、次に何をやったのか。 天皇を利用した軍事国家づくりだ。若き10代の明治天皇もきっと本意でなかったはずだ。 むしろ、楯(たて)つけなかったと見なすべきだろう。 明治軍事政権の施策の一つが、廃藩置県である。 これは徳川家が天皇に政権をもどした大政奉還と同じ。 戦国時代に武勲をたてた大名が藩主になり、そのまま268年も利益を得るのはおかしい。 全国諸藩の藩主たちも、天皇に権力をもどすべきだという考えだ。 幕末に、広島藩の辻将曹が各藩に呼びかけた。それが実行されたものだ。 その詳細は幕末歴史小説『二十歳の炎』に展開している。
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